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Beauty Source キレイの魔法

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恋愛セミナー53【橋姫】

第四十五帖  <橋姫  はしひめ>  あらすじ

宇治の山里には桐壺院の皇子にあたる八の宮が住んでいます。
ちょうど源氏が須磨に流された頃、当時の弘徽殿の女御が東宮であった冷泉院を廃して
この八の宮を東宮にしようと画策したことがありました。
源氏が京に帰ってからはすっかり時流が変わってしまい、八の宮はすっかり落ちぶれて
訪ねる人もなく、二人の姫を連れて宇治の里にこもっていたのです。

八の宮は姫達が気がかりで出家はしないままに、宇治にいる高僧に教えを乞い、
日々勤行に励んでいます。
高僧は冷泉院にも教典を教えていたので、あるとき八の宮のことを伝えました。
「俗聖(ぞくひじり)と言われて髪を下ろさないままでおられるのだね。」と言い、
その姫たちの一人を源氏が女三宮を育てたように慈しんでみたいと望む冷泉院。
そばで聞いていた薫は姫のことよりも八の宮のありさまが羨ましく、教えを受けたいと思います。

八の宮は薫の訪れを喜び、やさしく仏道について解き明かしてくれるようになりました。
すっかり八の宮に心酔し、宇治に通い続ける薫。
薫の訪問に加えて、冷泉院からも折にふれて文や贈り物が届くようになり、寂しかった山里に
人の気配がするようになったことを八の宮は有り難く思っています。

三年の月日がたった頃、八の宮が高僧のもとにいる夜に、薫は宇治を訪ねました。
八の宮の山荘は、宇治川のちかくで水の流れも風の音も強く、荒涼としています。
そんな場所で育ったのなら、きっと風情ある様子はしていないだろうと思いつつ、
薫は物陰から二人の姫達を覗きました。

急に明るくなった月の光に照らされた中の姫は艶やかな可愛らしさ、
琴に寄りかかっている大姫はたしなみ深く、しっとりした雰囲気です。
仲良く話している二人が、思っていた以上に美しかったのを喜び、
あらためて自分の訪れを告げる薫。
八の宮がいない間の薫の訪問に戸惑いつつも、うまく応対できない女房に代わって
御簾の内で自ら言葉を口にする大姫の声は、気品あふれるものでした。

ようやく老いた女房が呼ばれ、薫の応対を始めましたが、何故か激しく泣いています。
「実は私は柏木さまの乳母で、お耳に入れなければならないことが。」と伝える老女。
以前にぼんやりと聞いたことと思い合わせ、薫は別の機会にゆっくり話を聴くことにしました。

宇治から帰った薫は、匂宮に二人の姫のことをほのめかします。
あまり女性のことを語らない薫がいうのだから、本当に美しいに違いないと色めき立つ匂宮。
薫にもっと姫達のことを探るように言い、身分柄、自由に動けないのをもどかしく思うのでした。

再び山荘を訪れた薫は、姫達の琴の音をほのかに聞いたことを伝え、八の宮からも
素晴らしい琵琶を聞かせてもらいました。
出家したあとは、姫達の世話を引き受けるとの申し出に、八の宮は真面目な薫ならば、と安堵します。

その夜、薫はあの老女から出生の秘密を全て聞き、封印してある布袋を託されます。
京に戻ってから解いてみると、色とりどりの紙に、母・女三宮からの文や
震える筆跡で書かれた歌が残されていました。
「目の前で出家するあなたより会えないままにこの世に別れを告げる私の方が悲しい。」
「命があるなら人知れず残した我が子の成長を見たいものを。」
子供のように薫を頼りにしている女三宮には、事実を知ったことを話す気になれず、
一人でこの秘密を抱え込もうとする薫なのでした。

恋愛セミナー53

1 薫と姫達  最初の垣間見

ずいぶん以前の出来事が明らかになる帖です。
まず八の宮。
冷泉院との関係は政権争いの勝者と敗者というシビアなもの。
政権から離れたからこそ、連絡をとれるようになった兄弟なのです。

王族であっても、落ちぶれてしまうのは、末摘花にもみられました。
宇治の住人は寂しいながらも風情ある生活をしているようです。
俗体でありながら、聖人のような暮らしぶり。
母を捨てられない薫にとって、この生き方は理想なのでしょう。

そして、薫と柏木との関係。
父と母の交わした恋文を見る心持ち、まして自分が不義の子であるとはっきりと突きつけられる衝撃。

これは冷泉院の出生とも比べることができます。
藤壺との不義の子である冷泉院は、事実を知ったあと驚愕しながらも実の父である源氏を厭わず、
いかに高い位にあげるかに腐心しました。
本来ならなりえない帝という地位に父を越えてついてしまっている罪が、源氏に帝を譲ることで
少しは軽くなるのではないか、というのが冷泉院の考えだったのです。
世間からみれば、源氏の受けた准太上天皇という位はこの上ないもの。
けれど冷泉院からみれば、罪をあがなうには不十分。
死後の煉獄を恐れる当時の感覚からいけば、冷泉院のとった行動は当然のものでした。

源氏が薫の後見を特に冷泉院に頼んでいったのは、己の不義の報いで生まれたような薫を
育てあげることができず、罪の償いをすることが充分にできなかったからでしょう。
親の罪をあがなうのは子の務めという考えは、六条御息所の娘・秋好中宮も持っていましたね。
そして自分の罪以上に、冷泉院に罪を被せてしまったことへの恐れ。
不義の子・冷泉院が、源氏の後を引き受けて罪の子・薫を後見することは、親の罪を引き受けるのみならず、
冷泉院の罪を軽くすることでもある。
冷泉院は薫を父の真実の子、実の弟と思っているという錯誤はあるのですが。


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